鳥獣命編
今度こそ、と気合を入れていると、目の前にあったもふもふに完全に気合を根こそぎ奪われた。
「もふもふ……」
「ん? 誰かな?」
もふもふはもふもふだったがただのもふもふではなかったようで。
「も、申し訳ありません! あの、お怪我はありませんでしたか!?」
「大丈夫だよー。けど見かけない子だね。新しい星の意志の話は聞かないけど」
「私は創歐ノ輔様より使わされました、意志渡りの巫女、ルウシャと申します」
「ふんふん、るー、ね。ねぇ、そろそろとりさんの体から降りない?」
「重ね重ね申し訳ありません!」
ルウシャはすたっと名残惜しくももふもふから体を離すと、ぴしっと起立した。
「改めまして、こんにちわ、るー。とりさんは鳥獣命っていうんだ。それにしても創歐ノ輔だなんて、懐かしい名前を聞いたね。彼女から何か用なの?」
「いいえ。ただ、私に皆様方に会って話をしてこいと言われただけでございます」
「それだけ?」
「それだけ、でございます」
途端にその単純な命令が恥ずかしくなった。出立するときはあれほど誇らしい気持であったというのに。
「創歐ノ輔らしいね」
「え?」
「彼女らしいよ。うん」
鳥獣命は楽しそうに笑った(ように見えた。何せ彼は鳥の姿なのだ)。
「創歐ノ輔が家出する時にね、とりさんは苦労するだろうけど助けないよーって言ったんだ。その通りに彼女は苦労したけど、助けを求めてはこなかった。まぁ一回だけ例外があったけどね」
あれはとりさんが自分から助けに行ったからノーカン。そう言った。
「ところで、るーは鳥は好き? とりさんは一応獣を司る意志なんだけど、まぁこの姿を見て分かるとおり鳥が一番好きなんだよね」
「はぁ……。では鳥は食べられないのですか?」
我ながら、アホな質問をしたと思うとルウシャが思うのは鳥獣命と別れてからの話だ。
「とんでもない! あんなおいしいもの食べないなんだもったいないじゃない」
「は、はぁ……」
「いいよね、鶏肉。あ、でも食べられるのはあんまり好きじゃないんだ。すぐ治るけど、やっぱり痛いものは痛いしね」
「そ……食べられるのですか!?」
「なんでかみんなよく揚げたがるよ」
オーラからするに多分上位の意志に見えるのだが、よく食べられるらしい。
(どういうことなの)
さすがのルウシャも混乱した。
「さぁて、るー。まだお仕事終わってないんでしょ? 次はどこに行きたい?」
鳥獣命は、ばさばさと羽ばたいた。
ルウシャは軽く首をかしげたが、その意図に気づいて首を振った。
「と、とんでもございません! 鳥獣命様の背に乗るなど……」
「いいのいいの。もうちょっともふもふされてたい気分なんだよね」
さぁ、乗った乗った! といわんばかりに背を向けてくる。
「では、お言葉に甘えて……。もふもふ」
「ふふーん、もふもふには自信あるよ! じゃあ適当に飛ぶね」
「あ、はい。きゃああああ!」
優雅な空の旅とは無縁の、デンジャースカイトラベルへ出発したのだった。
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